野生麹熟成モッツァレラチーズ

Flone-koji

5年の試行錯誤から生まれた、新しい発酵のかたち

1.はじまり

山に入り麹菌を採集する。全てはそこから始まりました。

2. 野生麹という選択 ― 発見

一般的な麹は、人の手で管理された環境から生まれます。
しかし私は、自然界に存在する“野生の麹菌”に可能性を感じていました。

2021年、野生麹の調査を始め、
須我神社奥宮の自然環境から、
野生の麹菌を分離することに成功しました。

人の手が加わっていない環境で生きてきたその菌は、
これまで扱ってきた麹とは明らかに性質が異なっていました。

特に、タンパク質を分解し、旨みを生み出す酵素の働きは、
非常に高い活性を示していました。

だからこそ私は、
この菌をチーズに応用すれば、これまでにない味が生まれると考えたのです。

3. 最初の挑戦 ― 期待と結果

最初に挑んだのは、カマンベールタイプの白カビチーズの製造工程を参考にした試作でした。

強い分解力と旨み生成を持つ野生麹を使えば、
これまでにない味わいになるはずだと考えました。

白カビ菌の工程を、すべて野生麹に置き換える。

しかし結果は――
「あまり美味しくない」

チーズの表面には、カマンベールのように菌が現れ、
白ではなく、麹特有の黄緑色が表面を覆うように広がりました。

外観としては明らかな変化が見られる。
それでも、期待していたような旨みや深みは生まれなかったのです。

4.酒粕という選択

旨みが出ないのであれば、外から補うしかない。

そう考え、たどり着いたのが酒粕でした。

麹由来の旨み成分をすでに持ち、
なおかつ流動性がある酒粕であれば、
チーズに変化を与えられるのではないかと考えたのです。

実際に、酒蔵で仕込まれた流動性の高い酒粕や、
長期熟成によって旨みが凝縮した酒粕など、
複数のタイプを使い分けながら試作を重ねました。

しかし――
それでも結果は大きく変わらなかった。

5.試しては、結果が出ない。5年の迷い

なぜうまくいかないのか。

試しては、結果が出ない。
また方法を変えて、試してみる。

その繰り返しを続ける中で、
次第に違和感だけが残るようになっていきました。

気がつけば、5年。

技術ではなく、
考え方そのものを見直す必要があると感じ始めていました。

6. 問い直し ― 気付き

立ち止まり、原点に戻る。

甘酒、味噌、醤油――

麹が活きる場所は、
すべて“液体”または“流動性のある環境”でした。

そのとき、ひとつの気付きがありました。

「麹は、固体の内部で働くのが苦手なのではないか」

これまで自分は、
麹に“向いていない仕事”をさせようとしていたのではないか。

7. 発想の転換 ― 液体へ

ならば、チーズではなく“液体”に働かせるべきではないか。

注目したのが、モッツァレラやブッラータの保存液でした。

チーズそのものではなく、
それを取り巻く環境を変える。

ここからすべてが動き出します。

8. 野生麹 × 保存液熟成

保存液に野生麹を加える。

すると液体が変化し、
その変化がゆっくりとチーズへと移っていく。

これまで届かなかった“内部”にまで、
味わいの変化が現れ始めたのです。

そして今、発想はさらに進んでいます。

単に保存液に麹を加えるのではなく、
「いかに美味しい保存液そのものをつくるか」へ。

9. 現在のかたち ― スープをつくる

モッツァレラチーズから生まれたホエイから甘みを引き出して
そこに麹を合わせることで、
旨みと酵素を持った“スープ”が生まれる。

その中に出来たモッツァレラを浸すことで、
麹の酵素がゆっくりと働き、
チーズを発酵させながら味わいを引き出していく。

もはや保存液ではなく、
チーズを浸して味わうための“旨みのスープ”です。

そして、この味わいを支えているのが、
自然の中で見つけた野生の麹菌です。

タンパク質を分解し、旨みを生み出す力に優れたこの菌だからこそ、
液体の中で働き、チーズの内部にまで変化をもたらすことができる。

この製品は、その力価があって初めて成立しています。

この考え方は、
より美味しい麹のチーズを生み出すために、今も試行錯誤を続けています。


ABOUT ME
株式会社フローネ
株式会社フローネ
コロナ下の2021年の8月に松江市の忌部自然休養村内のリンゴ畑周辺の森から野生の麹菌を見つけてからチーズ工房をオープンさせるまでの苦労話を書いています。亀治米や味噌づくりについても書いていきます。おつきあいの程よろしくお願いいたします。
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